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診療グループ 研究内容 |
当科では、各専門領域の臨床研究の他に、大学院生や博士研究員が以下の研究を行っています。多臓器の機能維持や障害のプロセスに関連がある分子を突き止め、それらの障害を救済するための創薬が最終目標です。そのために、これまでタンパク機能が未知である分子について、基本的な解析(遺伝子単離、タンパク合成、細胞内機能解析、疾患関連性など)から研究を始めています。
1)Ubiquitin Specific Protease40(USP40)
USP40については、その遺伝子多型が遅発型
Parkinson病の発症と関連があるという報告があるますが、そのタンパク分子機能は全く未知でした。最近、当科ではこのUSP40が細胞内において中間系フィラメントであるnestinと結合し、腎糸球体上皮の機能維持に関わることを世界に先駆けて報告しました。このUSP40を遺伝子ノックダウンさせたzebrafishでは、糸球体の発生が阻害されることも明らかになりました。興味深いことに、USP40は胎生期の血管にも強く発現し、しかし成熟した血管では消失することが確認されました。この分子は血管新生にも関わることが予想され、悪性腫瘍の進展にも関与する可能性について研究を継続しています。
(Am J Physiol Renal Physiol 2017 Apr 1;312(4):F702-F715)
2) Wolf-Hirschhorn syndrome candidate 1-like 1(WHSC1L1)
WHSC1L1はHistone-lysine N-methyltransferaseの一つであり、エピジェネティック作用を介する遺伝子発現調節を担うことが示唆されていた分子です。また、乳がんや肺がんなどの固形腫瘍において、そのmRNAの発現亢進が同定されることが報告されていましたが、本分子の基本的なタンパク機能の多くは不明でした。最近、当科ではこのWHSC1L1が、腎糸球体上皮(ポドサイト)スリット膜主要分子であるnephrinの発現を抑制することを始めて見出しました。本報告はnephrinの遺伝子発現調節機序の新規経路を提唱したとともに、WHSC1L1が抗ネフローゼ薬の創薬の鍵になる可能性を示唆したものです。
(Am J Physiol Renal Physiol. 2017 Feb 22:ajprenal.00305.2016. doi: 10.1152/)
3) 細胞内エネルギー消費(リン酸化亢進)と小胞体ストレス
当研究室では、長きに亘り細胞内エネルギー消費すなわち偏ったリン酸化亢進と疾患の病態、さらに創薬ターゲットとのクロストークについて研究してきました。それを明らかにした代表的な仕事を以下に示します。腎糸球体ポドサイトの障害はネフローゼの病態の根本ですが、その障害の機序は世界中の研究グループが追い求めています。しかし、未だに多くの事が不明です。当研究室では、ポドサイト障害の最初の機転は、偏ったリン酸化亢進すなわち、過度のタンパク合成系の活性化(mTORC1活性化)であることをまず明らかにしました。さらに、その後に訪れる細胞内エネルギー系リバウンドともいえるエネルギー消費すなわち小胞体ストレスによる自己温存が、ポドサイトの血漿タンパクバリアー責任分子の合成障害を惹起しタンパク尿を導くことを同定しました。実際に、ネフローゼモデルマウスにmTORC1阻害剤を先行投与したマウスは、ネフローゼを発症しませんでした。以上の事実は、ネフローゼにおいても、創薬の標的はポドサイト内エネルギー調節系(リン酸化シグナリング系)であることを示します。
(Kidney Int 69:1350-1359, 2006; J Am Soc Nephrol 18: 2554-2564, 2007; Lab Invest 89:178-195, 2009; J Am Soc Nephrol 20:1586-1596, 2009; Lab Invest 81:992-1006, 2011; Lab Invest 91:1584-1595, 2011)
4) 未熟児網膜症に対する創薬研究
未熟児網膜症は現在でも失明の可能性を有する疾患です。レーザー治療が治療の主体となりますが、血管の成長を阻害する眼内注射も行われ始めています。私たちはT cell specific adopter (TSAd)という分子が、血管内皮増殖因子の誘導する血管新生に関わる新たな分子であることを明らかにしました。現在、網膜症の動物モデルを用い、この分子の未熟児網膜症における役割を調べ、更にこの分子を標的とした創薬の研究を行っています。この研究から、将来的に、より安全な未熟児網膜症の治療を目指しています。
(Sci Signal. 9:ra72, 2016)